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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)849号 判決

控訴人 有限会社佐藤商会

右訴訟代理人弁護士 小出良政

被控訴人 早見喜一郎

右訴訟代理人弁護士 松井道夫

主文

原判決を次のように変更する。

控訴人は被控訴人に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和四六年一二月七日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は当審において請求の趣旨を変更し、控訴人は控訴人・被控訴人間の別紙融資条件による融資契約の履行として被控訴人に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月一日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決及び仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人において本件融資契約における融資条件は別紙のとおりであるところ、被控訴人は昭和四六年一一月二六日同日付内容証明郵便をもって控訴人に対し、右融資契約において約定された担保不動産である訴外早見一人所有の新潟市白山浦二丁目一一〇番の二宅地と訴外早見ヨイ所有の同所同番地所在の家屋番号一一〇番二の二及び一一〇番二の三の建物上に抵当権を設定し、その旨の登記をするため同年一二月五日午前一〇時から一一時までの間に新潟地方法務局において抵当権設定登記申請をするべく右申請書類と引換に本件融資を履行するよう催告し、後に右一二月五日が日曜日に当ることが判明したので被控訴人は同年一二月一日書留速達郵便をもって控訴人に対し右一二月五日を一二月六日に訂正する旨を通知した、そして被控訴人は前記抵当権設定登記申請書類を用意して同年一二月六日午前一〇時から一一時までの間新潟地方法務局登記課において(被)控訴人の出頭を待ったが(被)控訴人は出頭しなかった、被控訴人はこれにより本件融資契約において被控訴人側のなすべき義務につき履行の提供をすべて終り、(被)控訴人は抵当権設定登記につき受領遅滞に陥るとともに右融資契約につき履行遅滞となったものであるから、ここに右契約中被控訴人の義務の履行を求めると述べた。〈立証省略〉

理由

一、被控訴人が自ら経営していたマンガン鉱山事業に関し、金融業を営む有限会社である控訴人から資金を借り受けてきて、昭和三七年五月その借用額が金四〇〇万円に達していたこと、昭和三九年一〇月二八日被控訴人及び控訴人並びに被控訴人の右融資金債務の連帯保証人であった早見ヨイ、早見一人(旧姓はいずれも田村)間において次の契約が成立したこと、すなわち(一)早見ヨイと早見一人は控訴人に対し同人ら所有の新潟市白山浦二丁目一一〇番三、同所一一四番一〇の宅地を代金三〇八万円で売渡す、代金債権三〇八万円のうち金二〇〇万円を前記借受金債務の弁済にあてる、(二)右売買と弁済が実行された場合、早見ヨイ、早見一人の担保提供により控訴人は被控訴人に金四〇〇万円を貸与する、右の融資は控訴人が保証人となり被控訴人が銀行から借入れる形式をとるが、銀行借入ができなかった場合、控訴人が直接被控訴人に貸付けること(以上)、右(一)の売買はそのころ実行されたが弁済についてはしばらく行われず、昭和四〇年一〇月一五日になって当事者合意のうえ充当額を金二〇〇万円から金一一〇万円に変更して充当を終えたことは当事者間に争いない。

二、しかして〈証拠〉をあわせれば、昭和三九年一一月三〇日被控訴人、早見一人及び控訴人の間で右融資条件の一つである被控訴人側から提供すべき担保物件を、早見一人所有の新潟市白山浦二丁目一一〇番二の宅地及びその地上にある早見ヨイ所有の建物とする合意が成立したこと、右合意において早見ヨイ所有の建物を担保に供することについては同人も前記の経緯により被控訴人を通じて承諾していたこと、しかしそのころ銀行からの融資は成功しなかったことが認められ、右融資条件が被控訴人主張の別紙記載のとおりであることは、後記別途担保の点を除いては、控訴人において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

三、控訴人は、銀行が融資をしないため控訴人が代って貸付を行う場合被控訴人は控訴人と協議のうえ別途担保物件を提供する約であったと主張するが、その主張の理由のないことは原判決の理由と同様に判断するから原判決の該部分を引用する(原判決三枚目裏九行目から同五枚目表七行目まで)。

四、控訴人は被控訴人が別途担保物件の提供をしないので昭和四〇年一二月一四日内容証明郵便で本件融資契約解除の意思表示を発し、右書面は同月一六日被控訴人に到達したと主張し、右郵便の到達したことは被控訴人の認めるところであるけれども、控訴人が銀行にかわって融資する場合に被控訴人側が別途担保物件を提供する旨の特約をしたことの認められないこと、前項に引用した原判決の理由に示すとおりであるから、右解除はその効力を生ずるに由ないものであって、右主張は失当である。

五、〈証拠〉をあわせれば、被控訴人は右融資契約にもとづき控訴人から融資を受けようとし、自己の側の義務に属する担保を提供すべく、昭和四六年一一月二六日同日付内容証明郵便をもって控訴人に対し約旨の担保不動産である早見一人所有の土地と早見ヨイ所有の建物につき控訴人のため抵当権を設定し、その旨の登記手続をするため同年一二月五日午前一〇時から一一時までの間に新潟地方法務局において抵当権設定登記申請書類を用意し、右書類と引換に本件融資を履行するよう催告し、後に右一二月五日が日曜日に当ることが判明したので被控訴人は同年一二月一日書留速達郵便をもって控訴人に右一二月五日を一二月六日に訂正する旨通知したことが明らかである(右各郵便の到達は控訴人の認めるところである)。しかして被控訴人が右のような手続によって通知をしたこと、右は本訴が控訴審係属後、しかも裁判長の事実上の釈明後になされたものであること(このことは当裁判所に職務上顕著である)、その他本件口頭弁論の全趣旨に徴すれば、被控訴人は右昭和四六年一二月六日の右時刻に右各不動産につき控訴人のため抵当権設定し、その旨の登記手続に必要な書類を用意して右法務局において控訴人を待ったことを推定するに足り、右認定をくつがえすべき証拠はない。しかして右日時に控訴人が右場所に出頭したことはこれを認めるべきものがないから、控訴人は被控訴人の約旨にもとづく担保の提供につき受領遅滞に陥ったものといわなければならない。右認定の事実によって考えれば、本件融資契約において被控訴人側においてなすべきことはすでに履行もしくは履行の提供を終ったものであるから、右昭和四六年一二月六日以後控訴人は約旨にもとづき別紙融資条件のもとに融資を履行すべき義務を生じたものというべく、従ってその履行として被控訴人に対し金四〇〇万円を交付して支払うべく、その遅滞については右遅滞に陥った翌日である昭和四六年一二月七日から支払ずみまで年六分の商事法定利率(控訴会社は有限会社であるから有限会社法第二条により商人とみなされ、本件融資契約はその営業のためにするものと推定されるから、結局右契約にもとづく債務は商行為によるものということに帰する)による遅延損害金を支払うべき義務がある。被控訴人は、右遅延損害金支払の起算点を昭和四〇年一一月一日としてこれを求めるが、本件融資契約においては被控訴人側における担保の提供が先給付の関係にあるものと解するのがこの種融資契約の実情にそうものというべきであるから、少なくともその提供があるまでは金員貸与の義務は履行の要がなく、従ってまた遅滞に陥ることはないものというべく、右部分の請求は失当である。また被控訴人はその請求の趣旨において「別紙融資条件による融資契約の履行として」なる文言を求めているが、右はひっきよう金四〇〇万円の給付を求める原因をいうに帰するものと解するから、とくに主文においていう必要はない。被控訴人は担保供与義務の履行の提供をしただけで、まだ現実の履行をしていないが、すでに履行の提供によって不履行による責は免れているから、控訴人は右融資としての金員交付を、担保の現実の供与がないことを理由として拒むことはできない。自己の右給付義務は履行し、被控訴人側において任意に右担保を供与しなければ、あらためてこれを訴求するほかない。なおこの判決の強制執行が直ちに直接強制に適するか、もしくは間接強制に服するほかないかについては疑問がないわけではないが、いずれにしても控訴人に前記のとおりの給付を命ずることを妨げるものではない。

よって被控訴人の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を理由のないものとして棄却し、これと異なる原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれをしないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 石崎四郎 判事田畑常彦は転任につき署名押印することができない。裁判長判事 浅沼武)

〈以下省略〉

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